このエッセイについて
はじめまして、えみすけです。元々は出版社で校正をしていましたが、現在はフリーランスでライター・校正・イベント運営をしています。これは私がホテルで客室清掃をしていた時の記録です。
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暗黒期の訪れ
私は公私に渡り暗黒期とも呼べるような状況で、客室清掃のパートを始めた。
「客室清掃員募集!時給◯◯円。週2〜OK!未経験者歓迎!」
こんな文字の踊る募集を見て応募した。長引く転職活動で切羽詰まっていた。お金が必要だったのだ。
カッシャンカッシャン減っていく残高の数字。いやな汗ばかりが流れた。加えて私生活もごたついており、良かれと思って選んだことが次なる波乱を巻き起こす。まさに暗黒期だった。
ベテラン戦士とポンコツ村娘
客室清掃はホテル側から業者が仕事を請け負い、人を募集するパターンが多い。かくて雇われた戦士(メイドさんと呼ばれていた)たちにミッションが与えられる。
それは約25畳の客室を45分程度で清掃し終えること。チェックインの時間は15時。それまでに割り当てられた部屋数(4〜5部屋)を全て清掃しなくてはいけない。
清掃スピードには個人でバラつきがあり、全体の進捗を管理するリーダーがフォローやホテル側への連絡業務を行なっていた。
「えみすけさーん、203号室のバスタブ、やり直し!粉っぽくてザラザラしてるって!」
「(ああああしまった)すみませーん」
「アメニティ用の皿を割った人なんて初めてだよ?!」
「(いや、早く終わらせようとしたら)焦っちゃって……」
私はよくやらかした。時間制限があり、ノルマ(部屋)があることが必要以上にプレッシャーだった。清掃を速く終わらせるには、優先順位と手順を決めてそれを体が覚えるまで繰り返すのがコツだ。けど当時はただただ焦って、毎回手順を変えていた。
同期はどんどんスピードも早くなっていくけど私は遅いまま。しまいにはベテラン戦士とポンコツ村娘みたいな差がついた。
それでも朝がくれば、また新しく清掃する部屋が待っている。チノパンにエプロンを結んで三角布をかぶり、清掃バケツを提げて戦場(客室)に向かう。
「あああ、今日こそは食器割りませんように。」
これが毎朝の光景だった。
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