朝、出勤して制服に着替える。身なりを整えて集合場所の食堂に行くと、いつも早いベテランさんたちはもう椅子に腰をかけていた。
朝礼前の食堂は客室清掃のパートさんたちが思い思いの待機をしている。朝ごはんを食べる人、他愛のない会話に花を咲かせる人、喫煙室で仕事前の一服を楽しむ人。いつもの光景だった。
その中でパートさんが集まり、覗き込むようにして見ているのは清掃評価のバインダーだ。ホテル側の客室担当者がつけた評価は、わたしたち清掃担当にとって気になるものだ。
自分はS、A、B、Cのどれがついたのかを確認している。上からSが最高・パーフェクトで、不備点がなく素晴らしいがA。1点でも不備があればBだし、清掃のやり直し箇所があった場合はCとなる。
清掃の仕上がり具合はホテルの客室担当者にとって、お客様の満足度に直結する。そのため、とてもよく見ている。
床に落ちていた髪の毛の本数とか、鉄でできているベッドガード(子供がベッドから落ちないようにするためにベッドに差し込むガードのこと)にほこりがあったとか、どうやって気がつくの?と毎回不思議で仕方ない。
パートさんの中に何十年も客室清掃の仕事を続けているベテランの女性たちがおり、やんわりと現場のメンバーに声をかけている。
Cランクを受けた新人に次がんばりなとか、こうすればよいといったアドバイスをしたり、その一方であんなに頑張ったのにBなんて、いやあんたしょうもねえとがははと笑う。要はフランクなところである。
Cランクを受けた新人のパートというのが何年か前の私だったし、何ヶ月かあとに、清掃評価のバインダーを食堂へ置きに行く立場なるなんて思いもしなかった。
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初めまして
私は長年校正をしていて、書く仕事もはじめたものです。そんな中でほんの数年だけホテルの客室清掃員として働いていた時期があります。
3Kと言われるような類の仕事で、時間に追われながら担当した部屋の清掃を全て終わらせるのですが、私はちっとも早くできるようになりませんでした。
早くできないどころか、同期がどんどん清掃スピードを上げていくのを追いかけるような立ち位置です。それなのにフロアの清掃進行を管理する立場になり、ホテルの清掃が終わった後に別のホテルで清掃するというダブルワークも経験します。
この「磨く、駆ける、時々すべる」では、その時のことを綴っていきます。
なぜ書くのか
ぶっちゃけていうと、黒歴史だからです。そう、自分のためなのです。結果からいうと、私は客室清掃の仕事を逃げるようにしてやめました。しかし、喉にささった小骨のように当時の感覚が残っている。それを書くことで浄化したいのです。
そんなささやかなことなのですが、客室清掃という身近な仕事の中にも、ほほう、と思えるようなことが潜んでいたかもしれない。そんなことを清掃の仕事をやめてから数年たった今、振り返りながら書いていきます。
ホテルには正月も盆もなく、365日稼働します。それは自動的に365日清掃する人が必要になるということ。次に利用されるお客様を迎えるために。連泊となっている部屋の清掃をするために。
これは一人の人間のホテル客室清掃記録です。よろしくお付き合いくださいませ。
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