ありがとうと言いたい【磨く、駆ける、時々すべる〜ホテル客室清掃記録〜最終回】

過去投稿分(2016年12月~2023年12月)
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【磨く、駆ける、時々すべる〜ホテル客室清掃記録〜】について
このシリーズでは、私がホテルの客室清掃として働いていた体験を綴っていきます。
とはいえ、設定はちょっと変えて書きます。仕事のことを書きますが、誰かを誹謗中傷することや、当時お世話になった人たちに迷惑をかけることは目指すところではないので。

前回までの話はこちら。

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清掃で本当に難しいのは清掃すること自体ではなくて(もちろん時間に追われるので難しいには違いないけど)、一見なにも問題がないように見えるところに潜む問題に気付けるかどうかだと思う。

忘れ物にご用心

旅行会社から配布された旅の詳細入り封筒、旅の雑誌、パンフレット。ここに飛行機や新幹線のチケットなど大事なものを挟んだことを忘れてゴミ箱に捨ててしまわれるお客様も多い。

たぶん、旅先について大体のことはわかったし、明日は帰るだけもしくは移動するだけだから、もう余計なものはいらないだろう、という気持ちになるのかもしれない。

旅というとプラスのイメージもあるけど、普段の精神状態とは違う。慣れない場所だから、気持ちもいろんなところに飛ぶし、普段ならしないようなことでも、ついうっかりしがちになる。

飛行機や新幹線などの交通切符や旅のチケットは最初から財布なりチケットホルダーなり、貴重品と一緒にしておく方が無難と思う。

排水溝のカップラーメン

洗面台を美しく仕上げるのは畳の部屋に髪の毛が落ちていないかを確認するのと並んで難しい。鏡の汚れの落とし残しはないか斜めから覗き込むように確認する。また洗面台の排水溝も難しくて、カップラーメンの食べ残しが引っかかっている場合があるから、腰を落として斜め下からのぞきこむようにして確認する。

不備を見つけようとするときは、対象と同じ視点の高さでは決して見つけられない。汚れはないに違いないという思い込みは消して自分が腰を落とさないと見えてこない。

風景のアメニティ

ホテルで販売しているものは、利用されるお客様の快適で優雅なひととき。客室はその優雅なひとときのための装置になるわけだけれども、その装置の一部分がアメニティである。

ホテルにお客さんとして泊まった場合、備え付けられているアメニティが名前の知れたメーカーのものやお気に入りのものだと嬉しい。普段は財布と相談しながら基礎化粧品を選ぶので、ちょっと特別な感じがする。ホテル宿泊のささやかな楽しみになる。

これが清掃してセッティングする立場からするとそうではない。

アメニティは商品の一部であり、抜けがないように美しくセッティングされなければならない。クレンジングから始まって洗顔料、化粧水、乳液、カミソリ、シャンプーキャップ、並べる場所も順番も美しく見える角度も全部神経を尖らす。

毎日のように見て、並べたり取り出したりするから、それは日常になってしまう。日常になれば風景になるし、見慣れている風景に特別な感情は湧かない。憧れそうなものなのに、憧れの気持ちがわかない。すこし、切ない。

半分お客で、半分清掃

ホテルで客室清掃をしなくなってからも、変わってしまったことがある。
ホテルに来ても裏側の方に最初に想像がいく。このホテルの形なら、タオルやパジャマなどがあるリネン庫はどこあたりにあるか。アメニティはどうしてるのか。非常階段はどこか。

部屋を見ても、清掃する側にものすごく感情移入する。内装が凝っていれば凝っているほど、清掃とセッティングは難易度があがる。まったく人ごとに思えない。

綺麗に清掃やサービスが行き届いたホテルはもちろん宿泊すれば嬉しいし、また泊まりたいなと思う。でも客にはなりきれない。半分自分が清掃する立場に立った時を想像してしまう。

ホテルはいろんな人のごった煮だからおもしろい

ホテルは、いろんな職業の人や立場の人が同じ建物の中で動いている。気の合わない人、親切にしてくれた先輩、とても清掃の早い人、話すと安心した人。一緒に働いた人の顔も思い出す。

働いていた時や辞めた当初はヒリヒリするものがあった客室清掃の仕事だけれど、今は苦味と一緒に懐かしく思える。全部ひっくるめておもしろかった。そう思えるようになるくらいまで進んできた、と今回この清掃記録を再開するに当たって気づいた。だから、当時私と関わってくれたすべての人にありがとうと言いたい。

最後に

時間はこれからも容赦無く進む。自分も激しい流れに負けないくらいに変わっていきたい。今の状況が早く改善されて、旅やホテルに泊まることが誰にとっても気楽に楽しめるものに戻りますように。そして最後までこのデコボコ記事におつきあいいただいたあなた様に。ありがとうございます。

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