その建物は全面がガラスブロックでできていた。
暖かい光がガラスブロックを通して私たちを照らしている。
はー。
思わず溜息がでそうになる。
暗闇を優しく包みこむ灯は夜の銀座でもひときわ美しい。
銀座5丁目にある銀座メゾンエルメス。
エルメスジャポン本社ビルだった。
写真を撮影する機会があり、友達たちと一緒に銀座へ繰り出した。
「ここは使いたいんだ」
革製品を販売する友達の提案がなかったら、エルメスのビルもただ通り過ぎたかもしれない。
私はファッション関係に疎い。
例えば行きつけの美容師さんたちは、ファッションに敏感でいつもおしゃれな格好をしている。
おしゃれなのはわかるんだけど、それが今のトレンドの何で、どこのブランドで、
どこらへんに工夫をこらして、どのように表現しているのが素晴らしいのかがさっぱりわからない。
カメラでいうと全面ボケてる。焦点をどこにあてればいいのかすらわからない。
へたに感想言って、けなされたと取られるのも悪いので、予防線として「私ファッションわからなくて〜♪♪」とか言うくらい(嘘ではない)。髪型も毎度おまかせでお世話になってる。
なので、エルメスといわれても、「すっごい高いブランド」くらいの認識しかなかった。
銀座の五丁目にガラスブロックのビルを建てている。
その時点で総工費にはゼロがいくつ並んだのか想像できませぬっ。
それでも、革のプロである友達にとっては、エルメスは全然違う意味合いがあるらしい。
その姿が印象に残り、「老舗の流儀 虎屋とエルメス」(新潮社刊)を読んでみた。
虎屋17代社長の黒川光博氏とエルメス本社全副社長齋藤峰明氏の対談を載せた内容だった。
虎屋はいわずと知れた和菓子の老舗で、こちらも自分がたベるというより、贈答用の高級品として知っていた。
馬具工房からスタートしたエルメスと、和菓子の虎屋。
ずいぶんちがう分野の組み合わせに思ったけれど、齊藤氏がなにかのインタビューで「エルメスのライバルを敢えてあげるとすれば虎屋」とおっしゃったところから始まった対談とのこと。
利益を追求するのが、企業なりわいになる。
数字的なことで言えば当然色々な同業者同士の闘いもあるんだろうな、と思う。
でも、対談した二人の目線はそこにはあたっていなかった。
そういうこともありつつも、もっとこれからのこと、どう今まで引き継いだことを大切にしながら時代の変化に対応していくか、お客さまに応えていくか。
そこを見据えて一つ一つの選択や判断を大事にしていた。
虎屋が500年。
エルメスが180年。
創業してから、長い長い時間を、判断に判断を重ねて時代の求めるものに必死に対応しながら生き抜いてきてる。
そんな老舗の経営者でも、決めること、判断するときは全部わかっていたわけじゃない。
わからないけど、わからないなかで変化して進化してきた結果の創業年数なんだなと思う。
すごい。
今にいたるまで、沢山の人達が繋いできた最先端と同じ時代にいるんだと思うと、それだけで圧倒されてしまう。
人と人が出会って起きる化学反応って本当に素晴らしいと思う。
自分の全然知らない分野でも、親しくなった人を通して、その信念や伝統を理解したり思いを馳せたりできる。
自分一人じゃ到底できないことだろう。
私ももっともっと熱を込めて文字や文章を綴りたい。
わたしの文章を読んだ誰かの人生にとって、素敵な化学反応が起きるといい。
そう願わずにはいられない。