できれば触れずにおきたい。
私はノンフィクションをあんまり読まない。
読まないというより、むしろ避けている。
例えば一匁山椒大夫さんが、条件下特別鼻血症候群だったとする。
この症状は美女を見ると勝手に鼻血が出てしまう。そうすると世の中は美女だらけ。一匁氏が平穏無事に生きて行くためには輸血が必要なのだ。
アホな設定だなあ。
フィクションなら、あきれればことたりる。
でも、ノンフィクションだった場合、それは現実と地続きな問題になる。
つまり条件下特別鼻血症候群は世の中の誰もが起こりうる症状であり、その症候群たる一匁氏がいかに己の健康を保ちつつ、美女のいる世界で生きているかの実録になる。
その現実がなんとも重い。
できればあんまり触れずにしておきたくなる。
(一匁山椒大夫さん、本当にいらしたらすみません)
「軍艦武蔵」というノンフィクション作品がある。
武蔵は第二次世界大戦の時に沈没してしまった、日本海軍が建造した戦艦大和の同型艦。
軍艦武蔵は著者が当時の資料や生存者インタビューを綿密に行った作品なのだけれど、
私はこの著書に圧倒されてしまった。
条件下特別鼻血症候群どころではない、悲惨な描写も多く、艦橋とかサンチとか言われてもちんぷんかんぷんだった。しかもそれは現実に起きたこと。
途中でどうしてもページをめくるのが辛くなる時もあった。
それでも軍艦武蔵は今も鮮烈な印象を残している。
ノンフィクションは苦手なはずだった。
だから、できれば触れずにおきたいジャンルだった。
それでも、実際に触れたら、とてつもなく記憶に残るものとなっている。
自分が食べられないかも、と思っているのは、単なる思い込みなのかもしれない。
もちろん、身体や精神を病むようなものは論外だけれども。
先日友人に面白いという作品を教えてもらった。
その作品の世界では、登場人物が決して報われない、幸せにはなれないシステムが構築されている。
搾取する立場の人物はずっと搾取するままだ。
私は自分の好みで、どうしても作品の中で報われることや、希望があってほしいと願ってしまう。
だから、作品の世界観を聞いたときびっくりして、どうしてそれがいいのか、よくわからないなぁと思った。どちらかというと拒絶気味に。
でも私が好きでも苦手でも、その作品は確かに存在し、友人も含めて多くの人の心を捉えている。それは事実としてあるから否定するのは違う。
自分が好きなものはついつい力が入るし、一見真逆なものを見たり聞いたりすると驚いてしまう。
でも、本当はこの世界には沢山の物事が存在しているよってだけなのもかもしれない。
そして、自分からは選ばないようなことでも触れて見ると、そこで思わぬ発見があるかもしれないな。
ノンフィクションの軍艦武蔵が大きな衝撃を与えてくれたように。
今日は新月。
新しいことの始まりです。
友人の勧めてくれた作品も含めて、今までだったら選ばなかったことでも、あえて乗って見るのもいいかもしれないと思うのです。
*条件下特別鼻血症候群はもちろんフィクションです。