ギークでガンダムが大好きだった彼のこと

過去投稿分(2016年12月~2023年12月)
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「あやまちはつきものだ。中にはラジウムの発見など科学の可能性を広げたあやまちもある。キュリー夫人は放射能中毒に苦しんで死んだ」

喧嘩した男ともだちの言い訳がこれだったらたまらないな。

私は一人ごちる。

「まーた最初から観てるよ。それシーズン1だろ?」

そうだよ、と答えた。まあ、確かに彼氏のいうとおりかもしれない。何シーズンも出ているのに最新作まで見終わるとまたシーズン1の最初から見始めるのだから。彼は呆れながらも、私の隣に座った。

だって好きなんだもの。好きというよりも、懐かしいのかも。主人公たちの言動が。そして困惑するヒロインの姿が。だいぶ昔の自分を思い出す。

 

「そのザクだけは、赤くてツノが生えていて3倍早いんだよ」

そうなんだと応じながら、いつも思っていた。このセリフを聞くのは一体何回めなんだろう?そして何回聞いてもちっとも頭に入らない内容なのに、なぜこうも何度でも聞こうとしてしまうのか。

大学の頃、私はその子のガンダム話を聞きによく自習室にいった。

大抵自習室の左一番前の席に陣取っていた。窓からの風が左頰にあたって気持ちよく、首を左から右に回して教室全体が見て取れるのもお気に入りらしい。図書館だと私語厳禁なのだけど、自習室はそこらへんがゆるいので割と会話もできるのだ。

学生だった私は、今から考えるとバカな恋愛ばっかり繰り返した。好きになっては振られて、付き合っては二股かけられて逃げられた。それでも懲りずにまた人を好きになっていた。そして大泣きした。あのころの私に会いにいけるなら、もう大ビンタ食らわしてやりたいくらいなのだ。最初のころは親身になって慰めてくれていた友達も、あんまりにもやらかしすぎるので若干呆れ気味に見てたっけ。

いい加減ボロボロになって、自分でも一体どこに向かおうとしているのかわからなくなった。

 

そんなころになんとなく話すようになったのが、ガンダムが大好きな早川くんだった。正直いうならガンダムのことはちんぷんかんぷんだった。なにかでどこかで見ていてなんとなく知っている程度だった。しかし、彼のガンダムに対する愛情は凄まじいものだった。彼は幾度もガンダムについて教えてくれたし、関連書籍も貸してくれた。ガンプラという玩具展開もしているらしく、全国に多くのファンをもつ根強いシリーズなのだそうだ。

そうだ、というのは、私自身ガンダムにはまることはなかったからだ。でも、彼の楽しそうに話す姿が好きだった。ガンダム自体というよりも楽しそうに話す早川くんのことが好きになっていた。

早川くんはガンダムに猛烈な愛情を注いでいたけれど、決して社交性のない人ではなかった。人付き合いもそつなくこなしていた。ただし、ものすごく儀礼的なのが端から見ているとありありとわかったけど。男の人を好きになっては玉砕している自分にはそんなところもまぶしく見えたのだ。だけど、そんな日々もあっさり終わりを告げた。

 

「俺さぁ、九州に恋人がいるんだ。3歳年上でむこうで就職してるんだよ」

 

なにを思ったか、ある日自習室でさらっと言われた。

 

私はうじうじと泣いてばかりして毎日を過ごした。終わってしまったことを何回も何回も繰り返し思い出した。レタスが苦手で、サンドイッチに入っていると、ありえんわーと言って一枚ずつ取り出していたこと。お気に入りの書籍や漫画は、保存用と鑑賞用で最低でも2冊は買っていたこと。テンションが上がると「俺ってかっこよくない?」と確認してきたこと(もちろんスルー)。

 

彼は言ったのだ。

 

「俺、九州に恋人がいるんだ。3歳年上でむこうで就職してるんだよ。でも2号さんも大歓迎。どう?ならない?」

 

私を量産機といっしょんにすんなーーー!!!

 

その時は蹴り上げてしまったけれど、一人に部屋で考えるとやっぱりまだ好きだった。2号さんも歓迎とか、殲滅もののセリフを残していったのに。どうしようもない自分の気持ちに嫌気が差したけど、耐えるしかなかった。

家に閉じこもってTSUTAYAで借りた映画ばかり観ていた。映画を観て思い出して泣いて映画を観ての繰り返しだった。

何日そんな日々を繰り返した時だったろう。飛行機をメインにした映画を観たときだった。

「あ、カッコいい」

的確な指示を部下に出し、危機を乗り越えるパイロット。そんなパイロットの姿が猛烈に私の心に食い込んできた。なんでパイロットだったのか、私にも実はわからない。でもその時から、パイロットの姿は私の脳裏に焼き付いて離れなくなった。

そこから、色々調べまくった。今まで考えたこともなかったのに、悩んで悩んで悩みまくって、私はパイロットになろうと決めた。

そこからの私は本当に頑張った。

航空大学校に入りなおした。方法はいくつかあって卒業してから航空会社に就職して自社養成パイロットを目指すという方法もあった。

航空大学校は一般の大学とは違うので、卒業しても学士の資格は取れない。パイロットになれなかったらどうしよう、そんな恐怖もよぎった。よぎるどころか、いつも根底にあって私を苛んだ。

それでも、自分で決めたことだからと邁進した。うしろにはなんにもなかった。叶わなかった思いがあるだけだった。

 

そうして。もう、連絡も取らなくなって何年も過ぎた。

 

パイロットになってから何回もバレンタインデーだろう。

今、隣で一緒にドラマを観ている恋人は、あいつじゃない。

 

卒業するときに恋人のいる九州の方で就職するとは聞いていたけれど、今はなにをしているのかは知らない。

 

でも、でもね。

 

このドラマをみるたびにあいつのことを思い出す。

 

ビッグバンセオリー/ギークなボクらの恋愛法則。物理学専門家の青年4人が女性の心の機微を読めないでKY言動ばかりするコメディ。

 

主人公のレナードやシェルドンがヒロインのペニーにとんちんかんなことをするたびにあいつのことが浮かんでくる。

 

へんね。

 

女の心はガンダムじゃないのよ。今ならわかってるかなぁ?

 

ねぇ、早川くん。

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