頭痛がひどくなったので検査へ。
頭部を触ると痛みが走り、だんだん全体にも鈍い痛みが広がるようになった。
病院は土曜にもかかわらず朝からごった返し、入り口付近まで診察を待つ人であふれている。
外は雨。疫病。体調不良。やや陰鬱な気分で顔を上げると水槽の中のいきものが目にはいる。
その生き物は無数の脚を細かく動かしながら、ひたすら水槽の隅に突進している。もちろん行き止まりだ。
でも飽きることなく突進する。そしてたまにふらっと反対側まで行き、手足を動かしてから戻ってくる。また突進を始める。なにを考えているかわからない。
よくみるとカブトガニだった。
「カニ」とはついているけど、蜘蛛やさそりがふくまれる鋏角類に分類される。節足動物なので蟹ではない。ややこしい。
水槽なので脚が生えてわさわさ動いている様もよくわかる。その脚の動きが蟹にそっくりだ。これじゃあ「カニ」と名付けたくもなるよ。
MRIのトットットッガーガーガーと繰り返す電子音を聞きながらカブトガニのことを考える。
あの水中をいったりきたりしているカブトガニの血液は青い。 そこから有効な試薬が作られるため、個体から血液を30%抜いてリリースする作業が 海外で行われているということを読んでいた。
知らないことだらけ。カブトガニにとったらとんだ受難だろう。一方でその試薬はたしかに人類の病気の研究に役立っている。
自分が当たり前のように受けている医療の恩恵は、沢山の人たちの膨大な積み重ねの上に成り立っている。
善とも悪とも言えない中でカブトガニは水槽の隅に突進して、私は脳外科医の診断を聞いていた。
致命的なものはないし、薬も効きにくい。そのうちよくなるよ、とのこと。カブトガニは場所を変えておとなしくなっていた。
お医者さんの言うように私は少しずつ回復し、頭痛は生活に支障をきたさなくなっている。
梅雨も疫病も果てしないことのように思えるけど、懲りずに半径5mくらいの身の回りをガシガシやっていこう。
調べたら岡山にカブトガニ博物館があるのでいつか行ってみたい。奧さま知ってました?ソーシャルディスタンスはカブトガニのオス4匹分ですってよ。