3月から始めたウォーキングは地味に続けている。先月からの緊急事態宣言もあって、身体を動かすことはストレス解消も兼ねているけど、すっかり鳥の鳴き声に魅了されてしまった。
最初のうち、鳥の鳴き声は他に聞こえてくる音の中のひとつだった。それは、朝刊がポストに入れられる音、道路を走る車の音やトラックの「バックします。ご注意ください」といったアナウンス音、携帯のアラーム音。雀やカラスや鳩の鳴き声は私にとって、いつも聞き慣れている音の一つ。
でも時間帯によって、特に人があまりいない早朝にコゲラ(日本で一番小さなキツツキ)がコツ、コツ、コツと木をつついている音を聴き、その木の乾いている感触を音から想像する経験をしてから。聞き慣れていると思っていた鳥の声を、生き物が交わしている会話として聴くようになった。
ウォーキングで通う近くの公園は川沿いまで繋がっており、そこまで行けばウグイスの鳴き声をよく聞くことができる。人間側からしたら愛らしい声でも、当のウグイスさんたちは必死だ。なにしろ自分のテリトリーを守り、お目当のかわいこちゃんに選ばれなくてはいけない。
一羽が鳴くとほどなくして、他のウグイスも鳴き返している。ホーホケキョに対してホケキョだったり、キョッと短い鳴き声を長く繰り返したりしている。一羽だけでホケキョと鳴く場合もあるし、声を高く短めに切って鳴き合戦をしている時もある。
「鳴きやがったなこの極道野郎!上等だ、鳴け、鳴きやがれ!」
「何じゃこのガキャ、ようし望み通り鳴いてしもたるわ!」
「いやあね、あそこまた喧嘩してるわよ。ちっともこりてないわ」
「ねえねえ、あんたはどっちの鳴き声が好みなのさ」
「そうね、私は……」
あんな軽やか声でこんなことを伝え合ってるのかしらん。ウグイス長屋とか??
声は麗しくてもウグイスさんの世界もシビアだ。
しかし、鳴き声は聴こえても、当のウグイスさんはまず見つけられない。体が小さいせいもあるけど、上手に隠れているためになかなかその姿を拝むことはできない。
見たい。見たいよウグイスさん!
ということで、日本で唯一の本格的バードウォッチングマガジン「BIRDER]5月号を購入。AR(拡張現実)で憧れの姿と鳴き声を補うことにした。文一ARなるアプリをダウンロードして、ARアイコンのついた写真をかざすと携帯に鳥の姿がうつされ、鳴き声も再生される。ARなんて、大昔のポケモンGO以来だ。本当に何を体験することになるかわからない。
上からARウグイスさん・ARコマドリさん・ARオオルリさん。日本三鳴鳥とよばれるみなさん。ウグイスさん、ウグイス色と呼ばれる色のようには鮮やかではないのがちょっとした発見。
(すべて文一総合出版・BIRDER5月号より)
仕組みがどうなっているのかちっともわからないけど、写真にアプリをかざすとホトトギスさんたちが、画面内に浮かび上がり、鳴き声まで聴くことができた。これで本体になかなか会うことのできない切なさが紛れるだろう。そう思った。
甘かった。
もう、なんとしても一度はこの目で見たい。ARでバーチャル体験したばかりに余計本物に一目会いたくなってしまった。普段から声だけは聴いているので余計だった。この実在していて、見つかりそうで見つからないという状態が一番惹きつけられるという習性はなんなんだろう。これは研究の余地がありそう(なんの?)。
自粛期間が延長されている。会いたいなあと思う人たち。馬のもふもふさ。ウグイス本体(スペシャルレアとしてカワセミ)。小笠原諸島。与那国島。屋久島。北海道。映画館・美術館・博物館・書店。ありとあらゆるところに出かけたいなあ。