癒しの油揚げ

過去投稿分(2016年12月~2023年12月)
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それは談話室で仕事をしていた時のこと。
図書館の吹き抜けの2階部分に机と椅子が並べてあるので「室」というより、空間。
PCのようなキーボード音を立てることも、飲食を摂ることもできるので、日中はこちらを使っている。

作業をしていると、ちょうど私から斜め右に男性が座った。
男性は唾でティッシュペーパーを濡らして自分の机のスペースを吹き、終わるとスーパーの袋を4つどさどさと目の前に置いた。
新聞を読み耽る男性。彼の目の前に並ぶ半透明の袋には新聞紙や歯ブラシやらがぎゅうぎゅうに詰まっている。きっとそういう方。
横に4つ並んでいる袋が私のパソコンの向こう側にもあるので、どうしても右斜めに座っている男性の選んできた一つ一つのことを想像してしまう。
タイミングなのか巡り合わせなのかわからない。けれど沢山の過程が積み重なって今の男性とスーパーの袋4つの塊ができあがっている。思いついたのはあたりまえのことだけだった。

一気に重いものを背負ったような気持ちになった。仕方ないので仕事を中断。
近所の酒屋さんに油揚げとあまさけ(ノンアルコール)を買いに行った。
こじんまりした店で前に改装していたのは知っていたけど、それ以来入るのは久しぶり。
磨かれたショーケースにワインが沢山並んでいる。
商品が一番よく見えるように照明も工夫されていて、鴨葱団子とか美味しそうな食材が沢山あった。
黒いエプロンで大きなお腹を隠した女性が冷凍食品のつくねや鴨葱団子の説明をしてくれる。
重くなっていた気持ちが和らぐ。

年配の女性が奥から出てきて会計をしてくれた。母娘なんだろう。
「重いリュックですねえ」
そうなんですよ、書類が沢山入っていてと返したところできづいた。

私だって外から見たら書類がパンパンに詰まったリュック背負っているから、
かなり職業不詳の人だ。
今自分の目の前にいる人がそれまでに何を背負ってきたのか、経験していたかなんて誰にもわからない。それでも積み重ねた選択の果てに私も目の前にいる女性達も存在している。
だったらなるべくにこやかに接したい。
お腹の大きな女性の笑顔はとても美しかった。けど、それは照明のせいではない。
どうぞよい1日を。
油揚げを食べるのが楽しみである。

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