最初の配達時は不在だった。配達時間を翌日午前中に変更した後、電話がかかってきた。
ちょうど今から配達に向かおうとしていたとのこと。
「あ、おまわりさん来てるんで切りますねー!」
ピーッピーッと声の向こう側で車をバックさせる音が聞こえている。
携帯で話しながら運転しているのを見つかったらそれはまずいだろう。
荷物を受け取れるのはありがたかった。しかし時間は21時半。
不在連絡票の配達時間帯はとうに過ぎている。
ほどなくやってきた方は年配の男性だった。
50台半ばくらいで、少し頭髪が寂しそうな方である。
「いや〜、助かりました。近所にいたんでちょうどこれから向かおうと思っていたんですよ」
男性は疲れも見せずにニコニコしながら言った。きっと朝早くから配達しているんだろう。
これには頭が下がる。
「こちらこそ、助かります」というと、この後も22時半まで配達するという。荷物が50個も事務所に残っているそうだ。
年末はなんとか乗り切れるんですけどね。今回はいけません。10月から消費税が上がるから荷物が増え過ぎちゃって。前回の増税の時もそうでした。
そういうと腰の低い男性はやはり笑顔のまま階段を下っていった。
今日は2回荷物が配達されてきた日だった。
最初はヤマト運輸さん。女性の方。
ダンボール一箱と大判の袋1袋が届く。仕事の書類だ。
めちゃくちゃ重くて持ち上げられない。ずりずり。仕方ないので引きずって運ぶ。
ずりずり。
家は4階にあり、エレベーターはついていない。
この重い荷物を女性が持ってここまで登ってきたのだと思うとその大変さを想像する。
運送業の人は大抵体型がシュッとしているけど、こういうことを繰り返していたら、
それは細くなるだろう。
私もとんでもなく体が細くなったことがある。
ホテルで客室清掃の仕事をしていた時だ。
身長161センチに対して46キロ近辺まで体重が落ちた。
近辺といって曖昧なのは、どんどん体重が減ってしまうので怖くなり、体重を測ることをやめたからだ。
パートとして入ったつもりがいつのまにか、ダブルワークで客室清掃の仕事をするようになった。
帰るころには日付が変わっており、何時間後には今の帰り道が仕事へ行く道に変わる。
その繰り返しだった。
その時はその時なりに気づくことや学ぶことももちろん沢山あった。
ホテルだから、顔を合わせる人が圧倒的に多い。気さくな人、暖かい人、
ソリの合わない人、どうしてそう考えるのかわからない人。多くの人と出会い、悩んだり、
笑ったりした。友達につながるような付き合いもできた。
しかし、とにかく忙しかった。
当時何をしていたかは思い出せるけど、何を考えていたかは白紙になっている。
そんな生活だったので、食事を摂る時間を作ることも難しく、食べても食べても身体は痩せていった。摂取が消費に追いつかないのだ。だから痩せる。摂取が消費を追い越すと太る。当たり前のことを自分の身体で実感していた。
当時はちょうど◯イザップがガンガン宣伝をしていた時だったので、わざわざ高いお金を払って痩せに行くのが理解できなかった。
清掃の仕事しているとあっという間に体重は落ちてしまうのに。
むしろ太るのが難しくなるのに。そう当時は本気で思っていた。
極端に痩せると思考もギスギスしてしまうのだと思う。清掃の仕事を辞めてからは46キロ近辺に体重が戻ったことはない。
人は環境の生き物だ。どんな生き物も自分が置かれている環境から必ず影響をうける。
それは考え方から何からありとあらゆる面で影響を受けている。
自分の体重ひとつとっても、環境次第でコロコロ変わってきている。
今じゃ痩せたといっても二の腕の肉は痩せていない。悲しいものである。
もし今の環境に居心地が良いと感じていないなら、片っ端から行動して変えていくのもありだと思う。
選んで決めて行動していくのはしんどいことも多いけど、変わっていく環境や自分を観察していけるのは面白い。面白がるために生きてるんじゃないかとすら思う。