校正・校閲の女がスナックのママになった夜、ほんだしが襲ってきた

この記事は約5分で読めます。

「ビール高い‼️なんでどこのメーカーも値引きしてないんだ?いや、金宮とPBの焼酎の値段ってなんでこんなに違うの??」

赤札堂の二階でアルコール類を仕入れながら、私は困惑していた。

二段組のカートの上段は料理の材料でいっぱいである。全3品とはいえ、15人分ともなると嵩は増えに増える。

今回のイベントのパートナーであるカンナナさんはもう少しで到着するとメッセンジャーに連絡が来ていた。仕込み開始予定時間は16時。それまでに食材を揃えて入店しなければいけない。

 

「やるしかない」

 

随分前にホテルの客室清掃の仕事をしていた時、人数・時間が足りなすぎる状況でよく先輩たちが口にしていた言葉を思い出す。裏コード「ザ・ビースト」とかスイッチ入ったとか人斬り時代に戻ったとか、なんていうかこうモードが変わってしまう呪文のようなものであった。もちろん清掃の遅い私には何度唱えても効果を発揮できなかったけれど。

 

先日、何もかもが初めての自主企画イベントをついに開催した。内容はちんぷん館というギャラリースナックをお借りして開くスナックイベントだった。テーマは現役の校正・校閲・その仕事に興味がある人を応援するというもの。

なんで校正・校閲?と思われるかもしれないが、それは私自身が校正・校閲だからである。正確には先月で退職しているから、現役というよりも元という方が正しいかもしれないが。

 

ことの発端はこちらである。まあ、がくぶるしていた日がきてしまったのである。そして共同開催者として子供向けの文章教室を主催しているカンナナさんとタッグを組んでいるのだ。

カンナナさんはその柔らかい物腰とフェミニンな装いで人を和ませる素敵女子である。素敵女子なのだが、以前働いていたイベント会社で、着ぐるみをトヨタのエースに乗せて環状七号線をぶっ飛ばすのがたまらなく快感という感覚の持ち主でもある。いろんな意味で素敵なカンナナさんである。

 

カンナナさんと合流し、なんとか調理も開始。メニューはのんべえで料理が上手い電気の何かをしている友達(何度きいてもよくわからない)に聞いて、鳥大根ともやしのナムルと味噌汁にした。

 

大元は東東京応援団という創業や自分で仕事を始めようとする人をサポートするメンバーの支援をえての開催である。スライドでの説明も初めてなら、入ってきてくれたお客さまに挨拶するのも、お手伝いに入ってくれた女性たちにあれこれ頼むのも、当日の会計を出してオーナーに使用料をお支払いするのも初めて。なにもかも初めてだらけで緊張しっぱなしだった。正直にいうとあっという間すぎて気づいたら終わっていたという感じだ。

 

「校正ばかりやっていた時は病みましたね」

 

ライター兼医療専門の校正をしている女性の言っていた言葉が忘れられない。彼女はめちゃくちゃエネルギッシュな人で、週末は趣味である美術館巡りで1日に7〜8箇所ほどを観て回る人だった。

 

「病みましたね」

 

その言葉を聞いた時、そうか私だけじゃなかったんだとおもった。校正・校閲は一方的に情報や知識が入ってくる、そして赤をいれる。でもそのことに対して何かの反応が帰ってくることはない。もちろんミスや訂正があるときは別だけど、ここでいう反応は自分の仕事に対してどう思ったか、どう考えたかなどを意味している。

 

そう、私はずっとどこかで人の反応が欲しいと思ってきた。そのことに改めて気づいてきたし、そして私だけではなかったのだとおもったのだ。これは悪魔で私個人の感じたことなので、すべての校正・校閲者にあてはまるわけではない。もちろん校正・校閲一本で病むことなく働き続けている方もいる。

 

でも、誰かに認められたい。そして誰かを認めていきたい。人の性質にはそんな大元の欲求があると思う。私には大いにある。それをこれから自分も人もハッピーな形で表現できれば本望だ。

 

今回のイベントを全般に渡ってサポートしてくれたあすかちゃんや、お手伝いにきてくれた女子ふたり、ちんぷん館のオーナー、陰ながら協力・見守ってくださった全てのかたに感謝申し上げたい。

 

帰り道、感慨に耽っていたが、

 

カバンの中がめっちゃほんだしくさいっ!!

 

どうやら、余って持ち帰ったほんだし顆粒の中身がこぼれてしまったようだった。

 

恐る恐る見ると、おなじみの薄茶色の顆粒が鞄の底に溢れていた。

 

カバンの中はほんだしの海!!!

 

こうして私は、人生初のスナックママになった日、だしの素に襲われた。もし、におというものに色がついていたとしたら。ほんだしのにおいは電車の中で鞄を覗いている私の周辺に広がっていることを他の乗客も視覚的にわかっただろう。においに色がついていなくてよかった。

 

その後、鞄はほのかにほんだしが香っていた。

 

ちなみにイベントの成功をメニューを教えてくれたのんべえともだちに伝えると

 

「ちょう酒弱いのにねぇ 😆 」と返ってきた。 

 

そうともよ、スナックのママをしておきながら、私は酒に弱い。ビール➡焼酎or泡盛or日本酒コースだと間違いなく、酔っぱらう。そして、意味不明メールを送る自爆行為をよく繰り返している。それでも理性を働かせ、いつも特定の人にしか送っていない(はず)。のんべえ友達は毎回意味不明メールを送りつけられている被害者でもある。

 

酒に弱い校正・校閲の女がスナックママするって思えばシュールじゃないだろうか。いつまで続くんだ?このお笑い人生。

タイトルとURLをコピーしました