【お江戸バイリンガル】絶対彼女はすべてを尻にはさむ

過去投稿分(2016年12月~2023年12月)
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通勤電車は奥が深い。

 

例えば携帯電話。

最近は暖かくなってきたので、パンプスで出社することも増えた。しかし、そうなると携帯電話は凶器となる。

隣の人の携帯電話が足の甲に落っこってきて跳ね返る。想像していただきたい。パンプスを履いているときは大抵ストッキングである。足が受ける外傷はほぼ素足と変わらない。

素足で受ける携帯電話は結構痛い。落下速度がついた凶器だ。それは私の足で跳ね返り、あさっての方向にいってしまう。隣の人は私の足の上に落ちたことにきづかない。まわりのひとに「すみません」と謝って拾うだけである。

痛いうえに気づいてさえもらえない。言うほどのことでもないけど、微妙ないやさ加減の出来事がおこる。

 

その日も朝の通勤時間帯は相変わらずの混雑だった。

 

私の左側に立つ女性は、肘を真横に広げて自分のスペースを確保し続けている。絶対に自分の領域を確保する彼女。ここでは絶対彼女と名付けることにしよう。

 

絶対彼女は背が高い。見たところ外国の女性のようだった。体格の良い彼女の肘は私の顔の横に来てしまう。そして、乗客の安全の為に電車はしばしば急停車する。

 

ききぃぃぃー。

 

絶対彼女、吊革を強く握り、真横に肘を広げる姿勢をホールド。

 

 

前のめりになる私、その先には肘が。

 

 

迫る肘。

 

 

朝から女に顔面肘鉄食らう女役を想像する。めっちゃ嫌だと思った。なぜに朝から女に肘鉄を食らわなければならないのか?男ならいいってことではないけど!

 

踏ん張れ私。悟空がスーパーサイヤ人になるときのような瞬間的な力を発揮するのだ。この状況を切り抜けるために!!

 

わたしは重心を後ろ(正確には右)にかけて肘から免れようとする。

 

狭い車内で絶対彼女とスーパーサイヤ人踏ん張り私との闘いが始まった。ごく限定され、尚且つ戦っている敵(?)すら気がついていないかもしれない闘い。

 

なんて孤独な闘いだろう。

 

でも負けない。戦闘民族サイヤ人は修羅場を乗り越えることにより、力がつくはずなのだ。右重心、右重心!

 

緊急停車の反動で、絶対彼女の肘鉄とは反対方向に身体を持っていかれる。顔面肘鉄を逃れて一安心だ。絶対彼女は身体をその場に固定している。あの安定感。人にも緊急停車にもその反動にも争い続ける己の強さ。なんて人なのか。

 

今までさりげなく彼女と彼女の身体の動きだけに集中していた目線を上にむける。

 

「せっかくのアドバイスを尻にはさんでしまうのか?」

 

見つけたっ!

 

東京メトロのあなたもお江戸バイリンガルシリーズの広告が目につく。あなたもお江戸バイリンガルとは、東京メトロの広告でお江戸言葉を紹介しているシリーズだ。

私は広告会社の人間でも東京メトロの職員でもなんでもないのだけれど、このシリーズのお江戸言葉はなかなか面白い。以前は「ちょちょら様いらっしゃいませんか」について妄想までした。

 

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「尻にはさむ」とは江戸言葉で屁とも思わないを意味するのだそうだ。今回の「せっかくのアドバイスを尻にはさんでしまうのか?」では、上司のアドバイスを屁とも思わない若手部下とのジェネレーションギャップが題材にされている。

 

屁とも思わないとは、軽んじて問題にしないということだ。

 

私は閃いた。これって隣の絶対彼女のことなのでは?

 

絶対彼女にとっては通勤電車で起こるすべてのことは尻にはさむだけのことなのだ。肘のホールドで自分の領域を確保し、踏ん張ることにより身体を他人の中へ投げ出さない。一連のすべては絶対彼女にはちょろいことなのだ。

 

そんな彼女をライバルと認定する私。絶対彼女が私の気持ちを知ったところで、きっと尻にはさむのだろう。なんだか小さい自分だなあと思わずにいられない。

 

通勤電車は奥が深い。

 

外に出ると空気が暖かかった。

暖かくて、いろんなことを思い出す。

友達と写真を撮ったこと、ご飯を一緒に食べたこと、美味しいレシピを教えてもらったこと、ハクモクレンの写真を送ってくれたこと。

 

なんだ。嬉しいこと、たくさんあるじゃないか。

一つひとつは大きなことではないのかもしれない。

でも、とっても嬉しいことばかりだ。

 

くよくよすることも、嬉しくなることも、小さなちいさな、ささやかなことで編み上げられている。

 

くよくよしたら、尻にはさんでしまえばいいか。

 

通勤電車は奥が深い。これであなたもお江戸バイリンガルにサンクスだ。

 

さて、今日もてくてく参りましょう。

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