雨の日や天気がぐずついた日が多いなぁとおもっている。
電車の中では傘の先が人にぶつからないか、気を配らなければいけないし、じめじめした人同士で密着するからすごしにくい。
日中は気を使うし、夜ではまた違った難しさがある。
いつも家に帰るとき、よく通る道がある。
その舗道はやっと1人通れる位の道幅で、電灯も遠くにあるので薄暗い。
雨の日に通ろうものなら、傘に加えてマスクで眼鏡は曇ってしまい、本当に前が確認しづらい。
人が向こうから歩いてきても、近くにくるまではっきり確かめられない。
その為に何度か肝を冷やしてきた道でもある。
ある夜のことだった。
いつも通り、その道を通ろうとすると、前から男性が歩いてきた。
ブルゾンにチノパンをはいて歩いてくる男性の姿を見て、私は来た道を戻ろうかと思った。
男性は大昔の上司の姿格好にそっくりだった。
顔は近くにくるまでは確認できない。
わたしはその上司が苦手だったし、苦手なまま終わった人だった。あまりに男性が似ていたので、そんなことをすっかり思い出してしまった。
そんなわけがないよね。上司なわけがないよ。
なんでこんなところを1人で歩くのか、理由もありそうもないし、あったら逆に不気味だよ。
あわあわしていたら、逃げ出すタイミングを逃した。
近く上司疑惑男性。
もし本当に元上司だったら。
今日はいいお天気ですね?とかいっちゃう?
いやいや、久しぶりですね?とか?
いっそHow are you?
パニック最高潮になる。
果たして男性は上司ではなかった。
当たり前だが、少し体をひねって私の横を通りすぎていった。
ただそれだけのことなのだけど、その道はしばらく通れなくなった。
元上司がどうのこうのというよりも、その時の記憶が自動再生されてしまうのが嫌なんだとおもう。
場所と人と思い出はワンセットなんだな。簡単なことで甦ってくる。
一昨日は久々に同じ道をとおったときのこと。
男性がハーフパンツ姿で雨の中を傘も差さずにとおりすぎていった。
おしゃれなのか、左足首にはよれよれの二連の紐。
雨なのにクロックスのサンダルでは防水にならないだろう。
現に足元からふくらはぎは飛んだ水しぶきでずぶ濡れになっていて、ぼうぼうに伸びたすね毛もペッタリしていた。
わたしはノートPCの入ったバッグをかばうようにして歩きながら、ふと気づく。
ルパンだ。
彼はルパン三世の顔によく似ている。
もみあげから顎に向かうライン。(そう、今時珍しくもみあげのある人なのだ)
頭蓋骨の形。
ルパン三世の顔の造形にそっくりだった。
こんなところでルパン三世似の人を発見するとは。
雨が降る夜道で、私はルパン三世に似た男性に追い抜かれた。
ルパンは私を追い抜くとスーパーに吸い込まれていく。
私が納豆を補充しようと思っていた店に。
ぶへっくしょいといいながら。
上司似の男性と会った時はしばらく通りたくなくなった道。
その道は今度はルパン似の男性が通った道に塗り替えられた。
いつもいつも記憶は塗り替えられていく。
雨が降る時もある。
悲しい時もある。
でも、その日ばかりじゃない。
そう思えるし、実際にそう思える出来事が重なっていく。
生きていくことはとっても奥深くて、面白い。