インフルエンザですが月が綺麗ですね

過去投稿分(2016年12月~2023年12月)
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この瞬間にどれだけの人が月を見上げているんだろう。

仕事帰りでたまたま見上げている人。

たまたま夕食の話題にのぼったからと見上げている人もいるだろう。

ハイスペックな撮影機材とベストポジションを確保して撮影しているプロは必ずいる。

ネットでライブ中継を見ている人もいるかもしれない。

興味ないし、そんなことどちらでもいいと思っている人もいるはずだ。

でも、確かに月が赤銅色に輝くこの瞬間を私たちは共有している。

そんなことがとても贅沢なことに思えた。

月は私たちの動きとは関係なく、ただ姿を変え、色を変え、光を降り注いでいる。

 

その日は急にきた。出勤途中で急に差し込むような腹痛に見舞われた。痛みは波のように不定期だったけど、確実に押し寄せる感覚を縮めてきた。結局、様子を見ている間に熱も上がり、医者の見立てはインフルエンザだった。

マフラー生活送っていたのに。なんで?

私はショックを受けながら、薬をもらい、家までの道をとぼとぼと歩いた。

そう、この冬は風邪対策として「マフラーをずっと巻いてすごす作戦」を実行していたのだった。

名前通り、家にいる際も首にマフラー的なものを巻いて過ごしていた。

おかげで風邪もインフルエンザにもかかることなく冬を乗り切れる、はずだったのだ。

が、人生初のインフルエンザに罹ってしまった。

作戦は失敗に終わり、事後処理に当たるべくインフルエンザ療養に突入したのである。

 

イナビルという吸入型のインフルエンザ薬の効果は覿面だった。

発症の翌日には熱は下がり、3日目も平熱時の体温を維持した。

体は喉越しの良いものしか受け付けなかったし、手も顔も肌もひどい乾燥状態だったけれど、熱が下がったのは嬉しかった。

普段から高熱なんて出したことがないので高熱慣れ(というのがあるのかわからないけれど)していない身には熱が38度近いだけでショックだったのだ。よわっちいのだ。けれど、そこからが長かった。むしろそこから悶々とすることになった。

4日目から熱はまた戻り、夕方になると上がってきた。そんな日が続いた。

土日を挟んでいるとはいえ、何日も休んでいる負い目もあった。

ウイルス持ちでは自宅待機しかないのだけれど、何日も人と話さずに過ごすというのが苦痛だった。

そうなるとロクな考えしか頭に浮かばない。やらかしたことや力をつくしたけどうまくいかなかったことや、仲違いしたことや、受け入れてもらえなかったことなど、ささいなことばかりが頭の中を駆け巡った。仕事してない、お話しできない、脳内ムービー再生のインフルエンザ3色団子だった。

だから携帯で友達や家族と話したときや先輩とメールでやりとりした時は、人と言葉を交わさないことがどれほど自分にとって苦痛なのかに気づいてびっくりした。

 

相手がいないと駄目なんだ。

 

頭でああでもない、こうでもないとこねくりまわしたところで、相手や自分の存在する世界があって初めて世界が成立していく。

 

そう、改めて思い知らされた。

 

「家系ラーメンににんにくを入れて食べたら夜中にびっしょり汗が出て、翌朝はすっきりしたよ!よかったらお試しあれ〜( ´ ▽ ` )」という先輩のアドバイスに食いつきラーメンにたっぷりにんにくを入れて食べた。

その日は皆既月食だった。友達からメッセージをもらって外にでると、月の左斜め下部分が欠け始めていた。

肉眼でまじまじとみる月食だった。

知識でもなく、ネットに流れるニュースでもなく、肉体を持ったわたし自身が体験している月食だった。

20時50分前後から欠け始めた月は時間をかけてその姿を消していった。

 

それは21時50分くらいの頃。

満月の明かりを消した月が赤銅色に輝き始めた。

ブルーブラッドムーンと呼ばれる月は鈍い赤茶けた姿をまとって空に浮かんでいた。

下を見ると夫婦なのか、空を見上げている人たちもいた。

 

ああ。

この瞬間にどれだけの人が月を見上げているんだろう。

友達も見ているだろう。

仕事帰りでたまたま見上げている人。

たまたま夕食の話題にのぼったからと見上げている人もいるだろう。

ハイスペックな撮影機材とベストポジションを確保して撮影しているプロは必ずいる。

ネットでライブ中継を見ている人もいるかもしれない。

興味ないし、そんなことどちらでもいいと思っている人もいるはずだ。

でも、確かに月が赤銅色に輝くこの瞬間を私たちは共有している。

そんなことがとても贅沢なことに思えた。

私たちが見上げているように、

月も、姿を変え、色を変え、そっと私たちを照らしている。

月は世界共通のラジオみたいだ。

私たちがその動きにチューニングしても、しなくても、確実にありつづける。

 

ちょっと気を抜くと日々のことに追い立てられて、小さな携帯画面に縛られて、

自分が考えている世界など小さなものだと忘れてしまう。

頭で計算したことがすべてであるような錯覚すら起こす。

でも、皆既月食はそんな私にも笑いかけてくれている。

ちっちゃい、ちっちゃい。と。

そんな月に言葉が伝えられるなら私はこう伝えたい。

 

「あなたはとっても綺麗ですね」

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